Imagination of the Virtual / Imagination des Virtuelles

これは自治医大で人文科学・社会科学・自然科学の基礎に携る研究者が構成する会です。現在は、心の働き(感情、知性、想像力、客観化)がどのような規範化を背景とするか議論しています。

研修1申請書:「バレエ・アム・ラインとミュシャ展」

申請日:2019年7月某日

研修名:感情表象の系譜の研究に関する研修

出張日程:9月20日(金)

出張者:小野純一(哲学)、吹田映子(文学)、 渡部麻衣子(倫理学

 

研修の目的

現在、総合教育部門の哲学、文学、倫理学を担当する教員3名(小野、吹田、渡部)は、18世紀以降の「客観性」の規範化に関する研究を開始している。「客観性」の規範化は近代社会の基礎であり、だからこそ規範化された客観性の批判は、ポスト近代と呼ばれる思想の核をなしてきた。「フェイクニュース」をめぐる混乱に象徴されるように、現代とは、客観性という共通の認識の規範(基盤というよりは)を失った時代であり、私たちは規範の再編成の只中にある。この渦中にあって、「客観性」の規範化の過程で切り捨てられた「感情」に関心を向けることは、規範の再編にとって必須の課題である 。たとえば「表現の不自由展」の中止が話題となった先あいちトリエンナーレが『情の時代』と名付けられたのは、こうした時代の要請を的確に捉えているからではないかと思われる。我々の研究においても、Loraine DastomとPeter GalisonのObjectivity (2010)を教科書として、客観性の規範化過程を読み解きながら、この過程で切り捨てられようとした「感情」が、どのように残余し、現代において、どのように再編されようとしているのかを考察していきたい。そのために、現代的な感情表象の場において観察を行いたいと考えている。

 具体的には、まず、Ballet am Rheinによるマーティン・シュレップァー演出の『白鳥の湖』を観劇したい。「白鳥の湖」は、チャイコフスキーによる3大バレエの一つに数えられ、1877年に初演されて以降、世界中のバレエ団がいくつかの異なる演出で公演してきた。近代芸術の一つの象徴とも言える作品だが、今回日本では初演となるシュレップァー版は、音楽を原典版に忠実に再現しながらも、現代的な振り付けで再構成し、作品を再解釈するものだ。我々は、この作品で、近代から現代へと様式が引き継がれる瞬間を目撃することを期待している。

 公演は9月20日(金)に渋谷のBunkamuraオーチャードホールで行われる。この時に、同時にBunkamuraで開催中の「みんなのミュシャ」展も鑑賞したい。19世紀後半に活躍したアルフォンヌ・ミュシャを中心に、線による表現の系譜をたどるというこの企画展でも、イメージの再生産がはじまった近代初頭に活躍したミュシャにおける「感情の表象」から、現代における表象へのつながりを考察したいと考えている。

 

場所:渋谷Bunkamura

旅程:14:00 〜 「みんなのミュシャ」展鑑賞

   18:30 〜 『白鳥の湖』観劇