Imagination of the Virtual / Imagination des Virtuelles

これは自治医大で人文科学・社会科学・自然科学の基礎に携る研究者が構成する会です。現在は、心の働き(感情、知性、想像力、客観化)がどのような規範化を背景とするか議論しています。

研修3申請書:五雲会(2019年10月19日)

出張計画書

 

研修名:感情表象の系譜の研究に関する研修

出張日程:10月19日(土曜日)

出張者:小野純一(哲学)、吹田映子(文学)、渡部麻衣子(倫理学

 

研修の目的

 上記出張者3名は9月20日の現代美術・現代バレエ研修では、ミュシャにおける線表現から現代に至る系譜、および音楽原典の忠実な再現と現代的振付けによる解釈を視察検討した。10月の研修では、研究主題上これに対応する象徴表現を能楽を対象として、日本の舞台作品における解釈・演出・感情の身体による表象の実践を視察し考察することを計画している。今回は日本の舞台芸術・近代芸術・現代芸術の問題を考察する第一弾として、本学での能楽の指導者の能楽師・澤田宏司氏主演の舞台を研修の場としたいと考える。

 能楽は19世紀末まで前近代の日本で「式学」として、またそれと関連して寺子屋で謡本が教科書として用いられ、前近代の社会全体にとって規範・基礎であった。近代化の中では、近代的概念としての「芸術」の規範化にともなって、すなわち主観や感情の領域としての芸術という認識の導入にともなって、そのような規範とは異なる表象の実践(感情を身体と言葉において表出し具現化すること)、および認識の範疇において、能は全く異なる規範に再編された。ポスト近代以降、近代主義的規範が解体され、規範の再編が試みられているなかへ能も再編されつつある。

 我々の研究主題である「客観性の規範化」に対して、その対立概念たる「主観性の規範化」は、対称性において我々の主題を明確にする相補的な位置にある。すなわち、近代の「客観性の規範化」を問いその再編を考察するには、主観あるいは感情の規範化と再編を論じる必要がある。換言するなら、科学において「感情」を切り捨てる形で邁進してきた「客観性の規範化」を考察するとは、残余の側面を考察することと相補的でなければならない。感情表現と規範、感情と身体表現という問題を前近代・近代・ポスト近代における規範意識の変遷との相関において考察するにあたって、歴史的に継続的に存在し中世的形式を維持しているとみなされる能は格好の題材となる。加えて、近代化の中で特有の変容を被ったアイデンティティ意識は表現者に「表現の不自由」を強制したり、能をナショナリズムの道具にしたりすることで、現代的な感情表象の場とその意味づけを大きく変容させている。

 今回は「敦盛」辰巳和磨、「井筒」大友順、「葵上」澤田宏司において妄執からの解放、男女の情愛の表現(身体・言葉)がどう具現されているか検討し(能は五流あるので、残り四流も視察する計画)、我々の今後の歴史的考察の一資料とすることを目的にしている。またこれは今後「主観」「感情」の問題を扱うのに相応しい曲目を選出するためでもある。加えて、能を対象とするのは、前近代的な譜面である謡本、譜面における線表現もまた我々の考察の射程に入っているからである。

 

上演場所:宝生能楽堂(東京都文京区本郷1丁目5−9)

上演時間:11:00〜17:00